江戸時代の宝くじ「富くじ」入門!庶民が熱狂した一攫千金の夢と驚きの裏側

はじめに

「もし宝くじが当たったら…」という夢は、実は江戸時代からありました。
当時「富くじ」と呼ばれたこの制度は、現代の宝くじのルーツです。
しかし、単なる運試しではなく、「寺社の修復」という立派な目的がありました。
庶民の夢と社会貢献を結びつけたこの画期的な仕組みは、なぜ人々を熱狂させたのでしょうか。
この記事では、厳格な身分社会で庶民に許された唯一の「一発逆転」のチャンス、「富くじ」の全貌に迫ります。

目次

  1. 富くじの意外な始まり:神聖な儀式から娯楽へ
  2. 幕府公認!「御免富」が生まれた背景とは?
  3. 熱狂の渦!江戸っ子を虜にした「江戸の三富」
  4. 夢か現実か?富くじの仕組みと驚きの当選金額
  5. 光と影:過熱する人気と闇市場の横行
  6. 突然の終わり:天保の改革が富くじを禁止した理由
  7. 富くじが現代に遺したもの
  8. まとめ
  9. 参考文献

1. 富くじの意外な始まり:神聖な儀式から娯楽へ

富くじの起源は17世紀初頭、大阪の瀧安寺で行われた「富会」という宗教行事です。
参拝者の名札をキリで突いて福を授けるもので、これが後の抽選方法「富突き」の原型となりました。
しかし、商業の発展と共に金銭的な賞品が導入され、一攫千金を狙う娯楽へと変化。
その流行から、幕府は風紀を乱すとして1692年に一度は全面的に禁止しました。

2. 幕府公認!「御免富」が生まれた背景とは?

厳しく禁止されていた富くじですが、18世紀に入ると、幕府は深刻な財政難から方針を転換します。
寺社の修復費用を賄うため、八代将軍・徳川吉宗は1730年、「仁和寺の修復」を条件に富くじを公式に許可しました。これが幕府お墨付きの「御免富」の始まりです。
風紀より実利を優先したこの制度は、寺社奉行の厳しい管理下で運営されました。

  • 目的の明確化: 興行を行う寺社は、修復目的や収支計画を事前に申請する必要がありました。
  • 場所の限定: 販売も抽選も、許可された寺社の境内でのみ行われました。
  • 公正な抽選: 抽選会「富突き」には役人が立ち会い、不正がないように厳しく監視されました。

このように、国家が公正さを保証することで、富くじは信頼性の高い制度として社会に受け入れられていったのです。

3. 熱狂の渦!江戸っ子を虜にした「江戸の三富」

富くじ文化が最も花開いたのは大都市・江戸でした。
最盛期の19世紀前半には、2〜3日に一度はどこかで抽選が行われるほどの人気ぶりで、特に「江戸の三富」と呼ばれた谷中感応寺、目黒不動尊、湯島天神は絶大な人気を誇りました。
開催日には数万人の群衆が押し寄せ、境内は祭りのような熱気に包まれ、地域経済を大いに潤したのです。

4. 夢か現実か?富くじの仕組みと驚きの当選金額

富札は1枚数千円から約3万3,000円と高価でしたが、「割札」という共同購入の仕組みにより、庶民も夢に参加できました。最高賞金は1000両(手取り約700両)。
200両で店が一軒買えた時代ですから、その金額がいかに人生を覆すものであったか想像できます。
富くじは、固定化された身分社会を飛び越えられる、まさに「夢の切符」でした。

5. 光と影:過熱する人気と闇市場の横行

しかし、「御免富」の価格の高さは、非合法な闇市場が広がる原因となりました。
幕府非公認の「隠富」や、公式の結果に便乗する「影富」が横行。
驚くべきことに、財政難から水戸藩のような大名までもが手を染め、武士の規律を揺るがすスキャンダルに発展しました。
やがて富くじへの過度な熱中は破産者を生むなど、深刻な社会問題となっていきます。

6. 突然の終わり:天保の改革が富くじを禁止した理由

約150年続いた御免富は、1842年の「天保の改革」で突然禁止されます。
これは老中・水野忠邦が、悪化した幕府財政と社会の規律を引き締めるために断行したものでした。
禁止の理由は主に、①許可寺社の増加による過当競争、②利権構造の複雑化、③射幸心が勤労意欲を削ぐという風紀上の問題、の3点でした。

7. 富くじが現代に遺したもの

天保の改革で消滅した富くじですが、人々の夢への願いは根強く、戦後に現在の「宝くじ」として復活します。
江戸時代の富くじは、幕府の財政、寺社の経営、庶民文化が一体となった社会制度でした。
「大義名分(寺社修復)」と「リターン(当選金)」を組み合わせた仕組みは、現代のクラウドファンディングの先駆けともいえます。
その歴史は、射幸心を管理する難しさと、社会における夢の必要性を教えてくれます。

8. まとめ

江戸時代の富くじは、閉塞した身分社会で庶民が「一発逆転」を夢見る一筋の光であり、寺社修復という公共的な目的も果たしました。
しかし、その熱狂は次第に闇市場などの社会問題を生み出します。
その光と影の歴史は、「大義」と「実利」を結びつける仕組みの有効性と危険性を現代に伝えています。
次に宝くじ売り場を見かけた際は、そのルーツである江戸の熱狂に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

9. 参考文献

  1. 江戸東京博物館『江戸東京博物館史料叢書5四谷塩町一丁目御触留』(2002年)
  2. 滝口正哉『江戸の社会と御免富―富くじ・寺社・庶民——』岩田書院(2009年)
  3. 青木茂男『近世日本における富籤の社会経済史的研究』增田兄弟活版所(1962年)
  4. Nam-lin Hur, “Prayer and Play in Late Tokugawa Japan”, Harvard University Press (2000年)
  5. 東京都公文書館「史料解説―富くじの明治維新」(2013年)
  6. 全国都道府県宝くじ事務協議会 「宝くじの歴史: 天下御免の『富くじ』」
  7. 台東区天王寺所蔵「旧感応寺富興行関係史料」(江戸後期)
  8. 日本銀行金融研究所貨幣博物館所蔵富くじ関連資料
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