はじめに
現代のAI開発では「GPUを使った高速な計算」などといった言葉を耳にすることが増えました。
CPUとGPUの違いを理解することで、AIの計算プロセスがどのように行われているかを知る手がかりになります。
本記事では、技術には詳しくないけれどAIには興味があるビジネスパーソンの方に向けて、CPU(中央処理装置)とGPU(グラフィックス処理装置)の基本概念と役割の違い、そしてAIの学習や推論での使われ方について解説します。
CPUとGPUの基本概念
CPU(Central Processing Unit)はコンピュータの「頭脳」と呼ばれ、汎用的な計算やシステム全体の制御を担当するプロセッサです。
複雑な命令処理や条件分岐など、様々なタスクを逐次的(シリアル)に実行することを得意としており、OSの動作やアプリケーションの管理など広範囲な処理をこなします。
少数の強力なコアを高いクロック周波数で動作させる設計になっており、一度に1つ(または少数)のタスクを迅速に処理するのに適しています。
GPU(Graphics Processing Unit)はもともと画像や映像の処理を高速に行うために設計されたプロセッサですが、現在では汎用計算にも利用されるようになりました(GPGPU技術)。
多数の小さなコアを備え、一度に大量のデータを並列(パラレル)に処理することに特化した構造を持っています。
単純な計算を大量に同時実行するのが得意で、ピクセル単位の画像演算や科学技術計算、近年では機械学習・ディープラーニングなどの分野で卓越した性能を発揮します。
身近な例え
CPUとGPUの違いは、業務の進め方を「少数精鋭チーム」と「大人数の作業スタッフ」に例えるとわかりやすいです。CPUは少人数のエキスパートが様々な仕事を順番にこなす会社のようなものです。
一方、GPUは大勢のアルバイトが一斉に対応するコールセンターにたとえることができます。
つまり、CPUは難しいタスクを一つずつ処理するのに優れ、GPUは同じ種類の単純作業を大量に同時処理するのに優れています。
例えば、レストランのシェフ(CPU)が自分で何百個ものハンバーガーを焼くより、何人もの助手(GPUのコア)に任せて同時並行で焼いた方が効率的だ、というイメージです。
CPUとGPUの違いを比較
CPUとGPUはどちらもコンピュータの中核となる演算装置ですが、そのアーキテクチャ(構造)や得意分野は大きく異なります。
以下では用途や処理方式、コア数、計算能力、AIでの役割といった観点で両者を比較します。
CPU(左)とGPU(右)のハードウェア構成の模式図。
CPUは制御やキャッシュメモリ(黄色・紫色部分)に多くのリソースを割き、少数の高性能コア(緑色部分)を搭載しています。
一方GPUは、ごく少ない制御回路で大量の演算コア(緑色部分)を並列に動作させる設計になっています。
表を見ると、CPUは複雑な処理を少数のコアで高速に実行し、GPUは多数のコアで単純な処理を同時にこなす点が際立ちます。
それぞれの特徴をまとめると次のとおりです。
比較項目 | CPU (中央処理装置) | GPU (グラフィックス処理装置) |
---|---|---|
主な用途 | 汎用的な計算処理全般:コンピュータ全体の制御やOS・アプリの実行管理。複雑な逐次処理や多様なタスク処理。 | 特定分野の高速処理:画像描画や映像処理に特化。大量データの並列計算(科学技術計算、AIなど)に活躍。 |
処理方式 | 逐次処理が中心。一度に少数のタスクを高精度に処理する。条件分岐や順序立った計算が得意。 | 並列処理に特化。同じ種類の計算を大量のコアで同時に実行する。繰り返し処理やベクトル演算が得意。 |
コアの数 | 少ない(典型的には数個~数十個程度)。各コアが高性能で多機能。 | 非常に多い(数百~数千個)。各コアはシンプルだが大量並列で総合性能が高い。 |
単体の計算性能 | 単一コアの性能・クロック速度が高く、低遅延で複雑な処理を実行。 | コアあたりの性能は低めだが、全コア合計のスループット(総合計算量)が非常に大きい。 |
メモリ構成 | 大容量のキャッシュメモリを各コアが利用し、メインメモリ(RAM)とやり取りする。 | 専用の高速ビデオメモリ(VRAM)を使用し、一部のキャッシュを共有。大量データをストリーム処理。 |
AIでの役割 | 推論(Inference):学習済みモデルの実行。一部の小規模モデルではCPUで十分高速に動作する場合もある。 | 学習(Training):大規模データでのモデル訓練に不可欠。ディープラーニングではGPUによる高速並列計算が必須。 |
その他の例 | 一般的なビジネスソフト利用、ウェブブラウズ、事務処理、システム管理など日常的計算。 | ゲームの3D描画、動画エンコード、暗号通貨マイニング、科学シミュレーションなど並列計算全般。 |
上記の比較から、CPUは汎用性と単体性能、GPUは並列処理能力にそれぞれ強みがあることが分かります。
例えばコア数ではCPUは数十個程度の高性能コアを搭載する一方、GPUは何千個ものコアを詰め込み膨大な演算を同時実行します。
その代わり1コア当たりの構造は、CPUコアの方が高度な制御回路や大きなキャッシュを持ち、GPUコアは演算に特化したシンプルな構造です。
この違いにより、処理の得意分野も、CPUは複雑なロジック処理やマルチタスク処理、GPUはデータ並列性の高い処理にそれぞれ適しています。
特にAI分野では、大量の行列演算を要するディープラーニングにGPUが理想的なプロセッサであることが明らかになっています。
AIの世界でCPUとGPUはどう使い分ける?
では、実際にAI(人工知能)の処理ではCPUとGPUをどのように使い分けるべきでしょうか。
ポイントとなるのは「学習」と「推論」という2つのフェーズです。
それぞれのフェーズで要求される計算特性に応じて、CPUとGPUの適材適所があります。
AIモデルの学習(トレーニング)にはGPUが最適
ディープラーニングなどAIモデルの学習では、何百万もの重みパラメータを含むモデルに対して、大量のデータを使った繰り返し演算(行列の乗算加算など)を行います。
GPUはこの種の単純計算の繰り返しを並列化して高速に実行できるため、学習時間を大幅に短縮します。
実際、GPUの登場によってニューラルネットの学習が飛躍的に高速化し、2010年代以降のAIブームを支える要因となりました。
特にディープラーニングではGPUなしで現実的な時間内に学習を完了させることは難しく、高性能GPUを複数枚使った学習サーバが組まれるほどです。
例えば画像認識コンペでGPUを活用したモデルが他を圧倒した有名な事例(AlexNet, 2012年)以降、AI研究ではGPUが不可欠な存在になりました。
AIの推論(実際の動作)はCPUでも可能
学習が完了したAIモデルを使って予測や分類を行う「推論」フェーズでは、必要な計算量が学習時ほど膨大ではない場合があります。
小規模なモデルやリアルタイム性をそれほど要求しない利用シーンであれば、GPUを使わずCPU上で十分間に合うこともあります。
実際、CPUはタスクスイッチの速さやメモリアクセスの効率に優れており、軽量な推論処理であればオーバーヘッドが小さいCPUの方がコスト効率良く動作するケースもあります。
特に並列計算を必要としない小さなモデルや、サーバーで大量のリクエストにスケールアウト(水平展開)して応答するようなシナリオでは、高価なGPUを大量に使うよりCPUクラスタで対応した方が経済的なことも多いのです。
例えばある企業では、リアルタイムの推論サービスをGPUではなくCPUサーバー群で運用することで、性能を保ちつつハードウェアコストを大幅に削減したケースもあります。
ハイブリッド利用と役割分担
実際には、ほとんどのシステムでCPUとGPUは協調して動作します。GPUは単体では動かず、CPUからの指示を受けて働く補助プロセッサだからです。
したがって「CPUかGPUのどちらか一方」というより、CPUがまず処理を統括し必要に応じてGPUに並列計算をオフロードする形が一般的です。
たとえばAIを用いたアプリケーションでは、データの前処理や入出力、制御フローをCPUが担当し、計算負荷の高いニューラルネット部分をGPUに実行させる、といった役割分担が行われます。
また、システム全体で見れば、サーバーサイドではGPUで重い計算を行い、エッジデバイス(PCやスマホ側)ではCPUで軽量な推論を行うという形で分散させるケースもあります。
要するに「得意な方に任せる」のが基本戦略で、CPUとGPUをうまく使い分けることで性能とコストのバランスを最適化できるのです。
実際、現在の高性能なクラウドサービスやスーパーコンピュータでもCPUとGPUを組み合わせており、それぞれの長所を引き出す構成になっています。
まとめ(結論)
本文で見てきたように、CPUとGPUはコンピュータ計算の両輪ですが、それぞれ異なる得意分野を持っています。
CPUは少数のコアで幅広い処理をこなす汎用の司令塔であり、GPUは多数のコアで特定の計算を高速に処理するエキスパートです。
この違いを理解することで、AI開発やデータ処理のワークフローで「どの処理にどのプロセッサを使うべきか」の判断がしやすくなります。
AI開発に適した環境を整える際も、この知識が役立ちます。ディープラーニングなど大規模なモデル学習にはGPU搭載マシンが不可欠です。
幸い近年はクラウド上で必要なときだけGPUサーバーを借りられるサービスも充実しており、高価なGPUを自前調達しなくても済む場合があります。
一方、学習済みモデルを使った推論システムはCPU中心でも構築可能であり、サービス規模や要求性能次第ではGPUなしで十分なこともあります。
将来的なAI活用を見据えて、まずは手元のPCで小さなモデルをCPUで動かしてみて、必要に応じてGPUリソースを導入する、といった段階的アプローチも良いでしょう。
最後に、「適材適所でCPUとGPUを使い分ける」ことが肝心です。AIを含む現代の高度な計算では、CPUもGPUも欠かせない存在であり、それぞれをうまく組み合わせることでこそ最大のパフォーマンスが引き出せます。
本記事の解説を参考にしていただければ幸いです。
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